第9章 一押し二金三男 \❤︎/
「お前も早く選べよ」
「…えっ、晋助様!」
部屋の中を見渡すと、どれを見ても豪華絢爛なもので一目で高価なものだと分かる。一つとして貧相なものはない。
選べと言われても、こんな高価なものばかり見ていると気が滅入ってしまいそうだ。
「こんな高価なものいただけません!」
「俺が好きでやってんだ。気にすんな」
高杉はそれだけを残すと奥の部屋に物色しに行ってしまった。
戸惑う凛を察してか、雅は優しく微笑んで見せた。
「ほら凛さん、好きなものを選んでいいのよ」
「で、でもっ…」
「ここにあるのは全部高杉さんの凛さんに対する好意なのよ。あの人、ずーっと選ぶのに必死だったんだから」
『選ぶのに必死だったんだから』
それはどういうことだろうか。
「だから、ね?」
そう言われ、仕方なくまた辺りを見渡す。
着物は色ごとに分かれて置いてあって、見ただけでざっと数百枚はあるだろうか。
一つ一つ物色していくと、どれもさらに素晴らしいものばかりで目移りしてしまう。
全体に刺繍をあしらったもの、絞りがきいたもの、松や桜、牡丹や鶴の柄。
今までに見たことがない一品ばかりだ。
雅に付き添われながら数十分ゆっくりと物色していると、奥の部屋から高杉が戻ってきた。
「いいのあったか」
「えっと…!これです!」
お気に入りの一枚を見つけて、ばーんと高杉に見せると高杉は少しだけ顔を顰めた。
それを不思議に思って凛も首を傾げた。
…高杉の好みではなかったのだろうか。
「…一枚だけか?もっとあっただろ」
「えっと…」
「遠慮はいらねえ。もっと欲しいやつ持ってこい」
「そ、そんなことできません!」
「なら俺が好きなやつ持ってくるぜ」
どうやら高杉は一枚だけではなく複数買っていくつもりらしい。
けれど今回だけはこちらも高杉に従うわけにはいかなくて、凛は素っ気ない高杉の後を追った。