第9章 一押し二金三男 \❤︎/
軽く朝食代わりの昼食を済ませていると、部屋のドアがガラッと開いた。
「…あ、晋助様!」
「そろそろ出掛ける。行くぞ」
食べかけだったおにぎりを頬張って、編笠を抱えた高杉の後を追いかける。
ずっとワクワクしていた心が、艦の外に出た途端に一気に膨らんだ。
「晋助様、どこへ行くんですか?」
「いいから付いてこい。ホラ、」
振り向きざまに優しく手を差し伸べられて、凛はぎこちなく高杉の手を握り返した。
素っ気ないがその姿にきゅんとして、手を繋ぎながら歩く。
何もかもが初めてのことで、胸の鼓動は早まるばかりだ。
恥ずかしくて、手を引かれる形で高杉の一歩後ろを歩いていると、
「横を歩け。恥ずかしがるこたぁねェ」
そう言われて、それに応えるように凛はぎゅっと高杉の手を握って横に並んだ。
「それでいい」
辺りには人がちらほらといるだけで、手を繋いだ男女が歩いているとなんとなく目立つ。
それが少し恥ずかしかったが高杉はそんなことは気にしていないようで、お構い無しに歩を進めていた。
しばらく歩くと長屋が建ち並ぶ民家が見えてきて、その細い道を出ると見覚えのある通りに出た。
「…あれ、ここ…」
「昨日お前が逃げ出した場所だ」
昨日の記憶を思い出す。
良くは覚えていないがやはり見覚えがある。
それに高杉が入ろうとしているこの家は、
「昨日の女の人の…?」
なぜ今更こんなところに来るのだろう。
また少しだけ不安な気持ちになると、それに気付いたのか高杉は凛の頭に手を置いて言った。
「心配するな。そんなんじゃねえよ」