第8章 あわよくば \❤︎/
溢れた涙が止まらない。
もうどれだけ泣いただろう。
涙は枯れてしまったと思っていたのに、まだ溢れてくるのか。
「悪いのはわたしだって分かってるんです。でも……考えると辛くて……っ、晋助様の好きな人は本当はその女の人だと思うと涙が止まらなくてっ…ごめんな、さいっ……」
「……そういうことかよ」
自分の腕の中でぽろぽろと涙を流すコイツを、不意に愛しいと思った。
抱き締める手に力を込めれば、弱々しい手が腕に触れた。
「全く、女を泣かすとは何事でありんすか。高杉さん、今日は早く帰りなんし」
「…ったく、ざまぁねえな。悪いが今日は帰るぜ」
高杉は女に後目で言うと、凛を抱く手を解いて赤くなった目にキスをした。
「ほら、帰るぜ」
「えっ、……え?」
何が起こっているか理解できないのか、凛は目をパチパチとさせた。
そんなこともお構いなしに、高杉は凛の手を掴んでそのまま歩き始め、後ろを見れば女は笑顔でこちらに手を振っていた。
それからずいぶんと高杉に引っ張られて町を歩いた。
思えばこんなこと初めてかもしれない。
握った右手があったかくて、何も語らないが言葉がなくてもそれだけで少し心が安らいだ。
艦に着くと、無言のまま高杉の部屋に連れていかれて畳の上に座らせられた。前には高杉があぐらをかいて、俯いていると顔をのぞき込まれた。
「…で?何か言いたいことがあるんじゃねえか?」
「………」
未だに何が起こったのかよく分からなくて、言葉が出てこない。
なぜわたしはここに連れてこられたのだろう。