第8章 あわよくば \❤︎/
「……凛?」
「…………!」
歩いていた長屋と長屋が建ち並ぶ細い道。
ここには誰もいない。
そう思っていたのに。
「…凛じゃねえか。何してんだこんな所で」
「…晋助、さま、」
行く先で、ガラッと長屋の引き戸が開いたと思うとそこから高杉が出てきた。
会いたくなかったのに、まさかこんなところで、
「………っ、」
足が竦んで動けなかった。
「あら、高杉さんどうしたの?誰かいたでありんすか」
聞こえた女の人の声。
高杉の後ろから顔を出したのは、紛れもない、あの女性だった。
その女性を見た瞬間、気がついたら走り出していた。
何も知りたくなかった。
見れば見るほど美しい女性で、雰囲気はなんとなく高杉と似ていた。
「オイ凛!」
自分の顔を見るなり逃げ出す凛を不審に思ったのか、高杉は走る凛を追いかけた。
「凛!どこ行きやがる!」
返事が返ってこない。
こんなこと、今までにあっただろうか。
高杉が後を追えば凛などすぐに捕まえられてしまって、それでもなお抵抗しようとする凛の背中を引き寄せた。
「やっ…離してください!」
「離さねえ。なぜ逃げる」
「…っ、晋助様のばかっ…晋助様なんて嫌いです……っ」
今にも消えそうなほどか細い声で凛は言った。
泣いているのか、ぽろぽろと雫が手の上に落ちる。
「…なぜ俺を見た瞬間逃げた?」
「…だって……だって晋助様がっ!…晋助様が悪いんですっ…晋助様が本当に好きな人はその人なんだってっ、だからわたし、っ…」