第5章 いいものですね。
「おーありがとなー…ん?どうした?」
「…っ!い、いえ!」
一瞬固まってしまって、男の声で我に返った。
すぐさま100円玉を男に渡すと、凛は顔が見えないようにただ俯いた。
お願いだから気付かないで、早く行って…!
ただそれだけを願っていると、
「サンキューな。じゃあ」
男はお金を受け取りそれだけを残してその場を去っていった。
「………」
「…バレなかったっスね…」
息が詰まる思いからやっと解放されて凛は胸を撫で下ろした。
「…良かった…」
銀髪の侍ーーー坂田銀時はきっと気付かなかっただろう。
「白夜叉が出てったからもうゆっくりできるっスね!で、さっきなんて言おうとしたんスか?」
その言葉通り、気持ちが少し軽くなったような気がした。
忘れかけていた、さっき言おうと思っていたことを思い出して凛はゆっくりと口を開いた。
「さっきの続きです。…わたしは鬼兵隊ということに、晋助様の隣にいられることに誇りを持っています。それにたまににはなってしまいますがまた子さんと一緒にお出かけできたり、わたしはもう充分幸せです。」
「………」
この心は本心だった。
何の迷いもなくそう言い切れる。
「…わたしも幸せっス。ここにいられて、晋助様の後を追えて。…それに」
「…それに?」
「…なんだか凛といると楽しいんスよね」
想像していなかったまた子の言葉に、嬉しくて目頭が熱くなるのを感じた。
「ずっと鬼兵隊で女はわたし一人だけだったから凛が来て仲間というか…妹ができたみたいで楽しいっス」
少し照れくさそうに言うまた子を見て、やはり目が霞んできた。
それを必死に抑えると、自然と笑みがこぼれた。