第29章 鬼が哭いた日 \❤︎/
「…あの日の夢を見た」
高杉はゆっくりと口を開いた。
「…あの日?」
「…松陽先生がいなくなった日だ」
゛松陽 ゛という言葉を聞いたその瞬間、凛の顔からは笑顔が消えた。
「なぜだか戦争の夢だった。それが酷くリアルで現実そのままでな……銀時が先生に刃突き立てたところも、思い出したくないのに思い出しちまった」
かける言葉が見つからないのか、凛は黙ったままだ。
「…全ては俺の弱さが引き起こしたことなのにな…情けねェ…」
「………」
今すぐにでも全てをめちゃくちゃにしてやりたい。
何故自分が生きているのだろうか。
できることなら己に刃を突き立てて、全て終わらせたいと何度願ったことだろう。
けれど自分は死すらも値していない。
ただ死をもって俺達を護り、そしてアイツに全てを背負わせてのうのうと生きている奴等の存在を思うとどうしても許せなかった。
そんなの、とっくに全部分かっている。
「…分かってんだ。…だからこんなに苦しい」
「………」
「…すまねえな、思い出させちまって」
高杉のため息は、この部屋全体に響き渡った。
「…ごめんなさい、晋助様…わたしっ…」
「…?」
「わたしじゃ到底松陽先生の代わりなんて大それたこと言えません。でも…でも、少しでも晋助様の心が休まるような、そんな存在になりたいです……」
「………」
「…怒りも悲しみも全部わたしにぶつけてください。感情の捌け口にしてくれてもいいです。だってっ……」
募った想いを吐き出すように、凛は俯きながら涙を流しているようだった。
「だって…わたしにとって晋助様は、晋助様にとっての松陽先生と同じなんですっ…」
咽び泣くような声に、高杉は少しだけ笑って凛の肩に手を回した。