第29章 鬼が哭いた日 \❤︎/
あの日からもう何年経っただろう。
何年も月日が経てば忘れるはずの出来事でさえ、あの日の全てだけは脳裏に焼き付いて離れない。
あの日のことが鎖のように自分のことを縛って、どんなにもがいても断ち切ってもまた絡みついてきやがる。
この左目に誓って腐った世界も天人も天導衆もアイツも、全てぶっ壊してやると決めた。
そのためならどんな手段だって厭わないし護るものなんぞ必要ないと思って生きてきたつもりだ。
あの時みたいに、また護りたいものができてしまったら足でまといになるだけだ。
そう思っていたのに、
「………」
骨が砕けるほど拳を握りしめて床に叩きつけても、痛みを感じるだけだ。
心を蝕む後悔と無念と怒りをどうすることもできなくて、そんな自分に嫌なほど腹が立った。
するとその時だった。
部屋のドアをノックする音と、女の声が聞こえた。
「晋助様?いらっしゃいますか?」
「…どうした」
「…少しだけ入っても大丈夫ですか?」
「…あァ」
ガラッとドアが開いた音がすると、姿を現したのは凛だった。
「晋助様、もう夜ですがご飯食べませんか?」
「…食欲がねェ」
今日一日何も口にしていないが、腹が減るどころか食欲さえない。
気付けばもう日は沈んで部屋は暗くなって、凛の顔が微かに見えるだけだ。
「…どこか具合でも悪いですか?…失礼します」
そんな自分を心配しているのだろう、凛は不安そうな顔で高杉を見ると、高杉の額に自分の手をあてた。
「…熱はないですね」
「…なんでもねェよ。大丈夫だ」
少し安心したのか、先程とは違って笑顔を見せる凛。