第28章 幸せって甘い
「…お兄ちゃん、お母さんに会いに来たの?」
「…いや、お前に会いに来た」
「…わたし?」
「あァ」
目をパチパチと瞬かせる凛に、今度は高杉が問うた。
「お前はここで何をしてたんだ?」
「…桜、見てたの。きれいだなって」
「好きなのか?」
「うん、大好き!」
凛は満開に咲く桜を見上げた。
高杉も一緒になって見上げると、そこには青い空にピンク色の花びらが映えてとても綺麗だ。
この光景は、まるであの日をそのまま映し出したかのよう。
「お兄ちゃんも桜好き?」
「あぁ。好きだ」
「今日はお兄ちゃんと一緒に桜見れて楽しい!」
「…いつも一人で来るのか?」
「うん、たまにお母さんとかお友達とも来るよ」
「…寺子屋は?」
「毎日じゃないけど行ってるよ」
「なぜ毎日行かないんだ?」
「だって、お母さんが…」
凛のその言葉に、高杉は黙るしかなかった。
自分が子供だった頃を思い出してみる。
気に食わないことや納得いかないことはたくさんあったが、衣食住に困ったことなど一度もなかった。
だがこの頃の凛を見ると今よりもさらにずっと細くて小さな体、そして古びた着物。
不満を抱えていた自分の幼少期が贅沢だと感じた。
少しだけ凛の顔には曇りの色が見えて、今にも泣き出してしまいそうだ。
高杉は凛の頭に手を置いた。
「…凛」
「…」
「…大丈夫だ」
「…え?」
「…俺が、」
高杉は凛の目線になるようにしゃがみ込んで続けた。
「…お兄ちゃん?」
「大人になったら、もっと幸せだって言えるようになる。…俺が言わせてやる」
「…」
「だから、何も心配するな」