第28章 幸せって甘い
「……え?」
少女はまた驚いたように高杉を見上げた。
「…凛…?」
「…お兄ちゃん、わたしのこと知ってるの…?」
今と変わらない瞳に声色、どこか漂う面影は凛そのものだった。
「……」
しばしの沈黙。
頷くことができず、高杉は口ごもった。
「…あの、」
なんと言えばいいのだろうか。
そのまま肯定するには理由が足りない気がするし、今の関係を説明するなんてことは専らできない。
高杉でさえ、今のこの状況を理解していないのだ。
「……」
言葉に困っていると、だんだんと凛は困惑の表情を浮かべていて仕方なく高杉は口を開いた。
「お前の母親の親戚だ」
「…」
「…」
一番怪しい気もしたが、致し方ない。
それしか思い浮かばなかったのだから。
「お母さんのお友達?」
「…そうだ」
「…そっかあ」
凛を怖がらせないように、できるだけ眉間に皺を寄せないように。
すると安心したのか、少しだけ笑顔を見せ始めた。
この笑顔こそ、凛そのものだった。
「…お兄ちゃん、お名前なんていうの?」
「…高杉晋助」
「しんすけ?」
「…そうだ」
するとなぜだか凛はぱあっと顔を輝かせた。
「…?」
「わたしのね、好きな本にもしんすけって名前の人が出てくるの!かっこよくて大好きなの!」
今までの怖がっていた顔が嘘のように凛は笑顔を見せ始めた。
「お兄ちゃんも一緒!かっこいい!」
「…そうか」
相手は凛なのに、どう接していいか分からなくて高杉は眉間に皺を寄せた。