第4章 コトバの紡ぎ方
その次は武市に頼まれたとおり、凛は阿伏兎を探して艦内をうろうろし始めた。
阿伏兎はどこにいるのだろうか。
この艦内にいるのだろうか。
そういえばこの艦内であまりあの男を見かけたことがない。
阿伏兎はいつも神威と呼ばれる男と一緒にいた。今もきっと一緒にいるのかもしれない。
見たところによると、阿伏兎は神威のことを『団長』と呼んでいた。ということは神威が上司で、阿伏兎が部下なのだろう。
最初は反対なのだと思っていたが、どうやら違ったらしい。
二人とはまともに話したことがないし、正直いって阿伏兎のところへ行くのは少し不安だった。
そんな不安を抱えながらとぼとぼ艦内を歩いていると、遠く前に見覚えのある人物がいた。
肩くらいまである少し長い髪に、艦内にも関わらず首からつま先まで、顔以外真っ黒な布で覆われた体。
紛れもない、あれは
「阿伏兎さん!」
お目当ての人を見つけると、凛は阿伏兎のところへと駆け寄った。
阿伏兎は凛の声に気付くと、後ろを振り返った。
「阿伏兎さん!」
「…ん?なんだぁ?お嬢ちゃん」
自分よりも数十センチも高い阿伏兎を見上げると、より一層すごい威圧感だ。一対一で話すのはなんとなく気まずい。
「えっと…武市さんから伝言があって…」
「伝言〜?」
できるだけ早くこの場から離れたくて、凛はすぐさま武市からの伝言を伝えた。
すると阿伏兎は一瞬顔を顰めて少しだけ笑って言った。
「ありがとよ、お嬢ちゃん」
「い、いえ!」
あれれ。別に怖い人ではないのかも。
「悪いが、俺からも一つ伝言いいか?」
「はい!大丈夫です!」
そう思った矢先に阿伏兎から伝言を頼まれたのが何となく嬉しくて、凛は勢いよく返事をした。
「じゃあ団長によろしく頼む」
「神威さん、ですか?」
「そうだ。あのすっとこどっこい、仕事したくねーからって朝から俺のこと避けてやがる!だからお嬢ちゃんから団長に仕事しろって伝えといてくれや」
「わかりました!」