第1章 入学と出会いとあの日
月島兄が2人を呼ぶ。
実は私は明日からまた東京に帰るのだ。
この楽しい空間にずっと居たくて言い出せなかった。
言ってしまったすぐにお別れが来そうでどうしても言えなかった。
意を決して月島兄に伝えて、2人を呼んでもらう。
走ってきた蛍と目が合うと、火照っていた顔が更に熱くなるのを感じ咄嗟に顔を背けてしまう。
蛍に変に思われただろうか。
すると隣にいた月島兄がフフッと笑った。
「蛍!明日からもう東京に帰ってしまうらしいからちゃんと挨拶しろよ。
俺はソイツとバレーしてくるから。」
そう言うと月島兄はゆうちゃんとバレーコートに走って行ってしまった。
「ちょっと兄貴!」
焦ったように月島兄に蛍は話しかけるも爽やかな笑顔のまま月島兄は居なくなり、二人っきりで残されてしまった。
なんだか不機嫌な蛍におずおずと切り出す。
『あのね。今聞いたかもしれないけど、今日で最後なの。』
「……うん。」
『なかなか言い出せなくて。あの。一緒に話せてとっても楽しかったよ。』
「……うん。」
蛍はずっと〝うん”しか言ってくれない。
私の中の弱虫が話すのを止めようとする。
それでも今日が最後だから話さなきゃ。そう思ってもなかなか言葉が出てこない。
言葉が出ないから必死で渡そうと思っていた物をポケットから出して蛍に見せる。
それは月と星のキーホルダー。
お店で見かけて、一瞬で蛍の顔が浮かんで2つ買った。
今考えると何でそうしたのかは分からない。
きっと私なりに悩んで一緒にいられない気持ちと向き合おうとしたのだろう。
『これ!あげる!私とお揃いなの。離れちゃうけどこれでずっと一緒だよ。』
多分顔が真っ赤で情けない顔をしている私はキーホルダーを蛍に渡す。
蛍は呆気にとられた顔で私の顔を見る。
趣味じゃなかったかな…と今更になって後悔が押し寄せる。
『ごめん!変だよね。やっぱり嫌だったよね。ごめん』
早口で伝えて、手を引っ込めようとするとふいに蛍にキーホルダーごと手を掴まれた。
「ちょっと来て。」
そう一言だけ伝えるとそのまま手を繋いだまま蛍は歩き出した。
訳の分からないまま私は体育館の裏まで連れて行かれた。