第262章 ---.届かぬ月よ
180年前
瀞霊廷第六区画
朽木邸
「嫌です!!私は爺様に稽古をつけてもらうのです!!」
幼い少年のその言葉に 使用人達が苦笑いする。
それに 祖父であるその男は苦笑いすると、
しかしなあと言った。
「もうこちらに来てもらっているし、帰らせるのもな。見合いという訳でもないんだ。それにかつては蒼純のことも見ていたんだ。腕は一流じゃぞ?」
男は少年を抱き上げる。
それに少年は、そのふっくらとした薔薇色の頬をぷくりと膨らませると 嫌ですと駄々をこねた。
暴れる少年を抑えながら、老人は廊下を歩き始める。
「私は朽木白哉!!誇り高き四大貴族である朽木家の血が流れる私が、何故一般死神風情に武を教わらなければならないのですか!!」
きゃんきゃんと喚く白哉に、老人も流石に苦笑いする。
そして一つの部屋の前につくと、男は閉じた襖の先に声をかけようとした。
「随分と、ワガママに育てたものですね 朽木隊長。流石貴族」
しかし、襖が開くよりも前に その声は聞こえる。
女性としては若干クセのあるその声に 白哉の意識が向けられた。
「そう言うな。これでもかなり厳しくは育てているのだが……いかんせん、傲慢に育ってしまってな」
「なっ」
「そうですか」
ゆっくりと、襖が開かれる。
濡れ烏のような美しい黒を持つその髪。
宝石を直接はめ込んだような 瑠璃色の瞳。
それに白哉は言葉を失うと、彼女は桃色の唇を開き、そのクセになる声で、そっと告げた。
「朽木隊長と朽木副隊長から話は聞いている。私は芭蕉臨。
今日からお前の師となる。
よろしくな、白哉」
次の瞬間 白哉は頭を木槌で叩かれたような衝撃を覚えた。
心臓が早く脈打ち 脳が熱くなる。
そして口を開くと、振り絞るような声で こう告げた。
「私の……生涯の伴侶となってはいただけませんか」