第248章 ⁇?.憧れは 理解に最も遠い感情である
眼が覚めると 見覚えのない空間に飛び起きた。
決して綺麗とは言い難いあばら家だが、隙間風ひとつ入らない その空間。
「………ここは」
「ここは流魂街……そうだな、人間の言うところの あの世というやつだ」
声の方へとバッと振り向くと、そこには瑠璃色の目を持つ 袴を履いた妖艷な女がいた。
「誰……ですか?」
「腹が減ってるだろう?食べなさい」
そう言ってその手に入れられた味噌汁と 豆腐の乗った出汁粥に、私は身構えた。
「何、毒など入っていないし、別にお前を太らせて食うつもりもない」
そう言って頭を撫でてくる掌に 心が落ち着いてくる。
成る程 先程撫でられた手は 彼女の手だったのかと思い、味噌汁を手に持ち口へと運ぶと、暖かな優しい味に心が安らいだ。
「………おいしい」
細かく刻まれた野菜のたっぷり入ったその味噌汁が 空腹だった胃に優しく入っていく。
今度はごはん茶碗を手に取ると 鰹節の良い香りが広がり それに口をつけた。
こちらもまた 口の中に広がる昆布と節の甘い香りが広がり 思わずため息を吐いた。
「お代わりもあるから しっかり食べろ」
無我夢中で 箸を進める。
こんなまともな食事は いつぶりだろうか。
「決していい暮らしとは言い難いが、現世よりもまだマシだろう。ほら、お前らも早く入って挨拶くらいしないか」
女がそう言うと、襖を開けて 私と年もそんなに変わらないであろう男女二人が中に入ってきた。
「は……じめ、まして」
「なあなあ、お前現世から来たんだろ!?現世ってのは、何があんだ?俺流魂街で生まれたからさ、現世ってやつがしりてーんだ!」
一際元気のいい、その少年が私に詰め寄る。
すると次の瞬間、女から強烈そうな拳が彼に振り落とされ、彼は頭を抑えて蹲った。
「一、初対面の相手にグイグイ行くなと何度もいってあるだろう。二子も挨拶はきちんとしろ」
「っーーーーてえなこの糞豚饅頭!!」
「せ、先生は豚でも饅頭でもないよ………一くん……」