第56章 68-3.Fire Flower
「私はルキアを手放しました。それがルキアの幸せだと思ったのです。」
その言葉に一護が押し黙る。
すると、臨はこんな重たい話、困りますよね苦笑いした。
それと同時にドンという音が辺りに響く。
キラキラと光る火花が空を覆い尽くすと、再び臨は口を開いた。
「今なら、引き返せます。」
凛としたその声が辺りに響く。
何がと一護は聞こうとするが、臨は真剣な顔をして続けた。
「本当はキミを巻き込みたくはないのです。一護くんはまだ未来ある人間、本当はこのまま現世に残って人生を全うしてほしい。それにキミはまだ戦いに関しては素人です………もしかしたら、あちらで命を落とすことになるかもしれない。………キミは"人間"なんだ。」
一拍
しかし一護はあーあと大きくため息を吐くと、真剣な表情で臨を見つめた。
「なんと言われようと、俺は行くぜ。」
それに臨が目を見開く。
「ルキアと臨がいなかったら、今頃俺は虚の腹んなかだったし、遊子も夏梨も、親父もどうなってたかわかんねえ。………俺はまだ、二人に借りを返して無え。」
すると一護は臨の頭にポンと手を置き、ぐしゃぐしゃと髪を乱れさせた。
「ちょ、ちょっと」
「一人でなんでも解決しようとしねえで、ちったあ周りを頼れよ。」
「……死神が守らなければいけない人間に、頼ってもいいのだろうか。」
臨の声が震える。
「言えよ。ルキアを助けたいって、力を貸してほしいって。」
すると臨は堪えていた何かが溢れたようにポロポロと泣き出し、くしゃりと顔を歪めた。
それに驚き、妹達にするように慌てて一護が臨の頭を抱きしめる。
通行人達はその二人を囃し立てたりあらあらと生暖かい表情をして横を通り過ぎていった。
その後、泣き腫らしたような臨の目に一護への批難が殺到し、彼がたつきに殴られたのはまた別の話。