第9章 お揃いのもの
だがすぐに森山がやってきて、その手は止められる
「名前ちゃん!大丈夫か!」
「森山、苗字のこと運んでくれないか」
「喜んで」
顔が白い彼女の膝と背中に腕を回し抱き上げる。恥ずかしさと申し訳なさがあるが下ろしてもらっても迷惑をかけるだけだとさすがに分かる
先程落としてしまった飲み物を拾う笠松にも申し訳なさを感じながら、彼女は口を開いた
『すみませ…重いですよね』
「天使の羽のように軽いさ」
『お上手』
「顔色が悪い、目を瞑っていたまえ」
『ありがとうございます』
すっと目を瞑る。揺られてる感覚が気持ちよくて、このまま眠りにつけそうなほどだった
段々落ち着いてきて、やけにチカチカしていた視界が戻ってくる。その視界には黄色の髪を揺らしながら焦った表情の黄瀬が映った
「ちょっと森山センパイ急に電話出ていなくなったと思ったら何してんスか!!
せめて説明してからいなくなって欲しいし、普段からあのくらいの速度で走ってください!」
「キャンキャンうるせぇな、苗字の体調悪いんだよ」
「フラフラしているのに歩かせるのか?
そんなこと紳士として出来るわけがないだろう」
「体調悪いんスか!?」
「あまり大声を出すな黄瀬、名前ちゃんの頭に響いたらどうするんだ」
「うっ…森山センパイがまともなこと言ってる…」
聞こえてくる会話に思わずくすくす笑う苗字に気づいた黄瀬はホッとしたのか笑みを浮かべて、しかしガックリ肩を落とす
「オレがしたかったっス…」
「名前ちゃんそろそろ着くが…このまま で良ければこのままでも」
「良くねぇよ!早く座らせてやれ!」
到着しそっと椅子に下ろされた苗字がお礼を言うと、森山は「いつでも言ってくれ」と跪く。その横の笠松に「アホ」と軽く蹴られているのはきっといつもの事なんだとその様子でわかる
だいぶ楽になった時、隣にいる黄瀬に先程見えた内容の中の疑問点を彼に問いかけた
『ねぇ黄瀬君』
「なんスか?お姫様抱っこっスか?」
『いや違うんだけど…えっと、耳の』
「耳?」
『ピアス…黄瀬君からもらったの?』
「…なんで、それ」
『さっき…見えた』
動揺する黄瀬の様子を見て、先程のものが本当のことなのだと察した