第9章 お揃いのもの
黄瀬が彼女にピアスを渡したのは2回程ある。開けた時と、I.Hの桐皇戦の時
だが彼にはわかる。開けた時では無い、絶対に
「…名前っちは、ピアスをあげる瞬間を思い出したんスね」
『思い出したって言うか…見えた?かな』
「見えた?」
『さっき自販機で買って戻ろうと思ったら、なんか黒子君と黄瀬君と、黒い髪の私が、話してて』
「小さな巾着袋渡して、名前っちは、泣いてた?」
『うん』
落ち着いた彼女は自分の右の耳たぶに触れると、塞がないようにと付けている透明なピアスの感触だけ指に伝わってきた
なぜ、右にしか開いてないのだろうと疑問に思ったことはあった。オシャレなのかななどと解決していたが今理解できる
「オレが痛くて片耳しか開けられなくて、名前っちがもう片耳分あけてくれたんスよ」
はにかみながら嬉しそうに左耳に触れる彼を見て、ジュエリーボックスに入っていた黄瀬とお揃いというピアスを思い出す
だから、ピアスが開いてるのに全然ピアスを持っていなかったんだと悟った
話しているうちに体調も良くなってきて、心配かけてしまった3人に笑いかける
『ご迷惑かけてすみません。もう大丈夫です』
「よかった、体調悪かったのか?」
『いえ、特には…』
「その記憶を思い出したのが名前ちゃんの体の負担になったんじゃないか?」
「それが妥当っスね、思い出したあと気をつけるんスよ」
『うん』
長いようで短いようなインターバルは終了し、その後も応援を続ける
結果、海常は難なくインターハイ出場へとコマを進め笠松、森山共に満足そうな顔をしていた
しかしその横で、彼女はうかない表情を時折浮かべる
その理由がなんなのか、またその顔に彼らは気が付かなかった