第9章 お揃いのもの
彼女の視界にここではないどこかが映る
どこか外で、先程すれ違った子が着たジャージと同じものを着た黄瀬が誠凛のジャージを着た黒子、誠凛の制服の苗字と話している
過去だと、悟った。黒髪の苗字は小さな巾着袋を黄瀬君から受け取って話し出す
『…これは?』
「オレの御守りみたいな物なんスけど…なんかアンタにあげたくなったんスよ」
「黄瀬君の御守りですか?」
「中開けて大丈夫っスよ」
言葉のとおり、その小さな巾着袋のひもを解き中身を落とさないようにと手のひらに中身を落とす
彼女の動きが止まった
「誰かからもらったピアスなんスけど…何かアンタに持ってて欲しいッス」
『りょう、た…』
ピアスを受け取っただけで過去の自分が泣き始めたが、なぜ泣くのか様子を見ている苗字には理解できない
だがそれは黄瀬も同じようで、オドオドしながら「うわぁぁぁぁ、泣く!?オレ、何か嫌なこと言ったッスか!?」と彼女に声をかける
しかし黒子は答えを知っているのか優しく笑った
「逆ですよ。黄瀬君」
「…逆?」
「俗に言う嬉し泣きです。でしょう名前さん」
『う、ん』
「…そっスか、喜んでもらえて何よりっス!」
『試合、頑張ってね』
「もちろんっス!じゃあね!名前っち、黒子っち!」
決起、彼女は何を喜んで泣いたのだろう耳飾りだろうか。たどり着けない答えになやんでいると、苗字の見ている景色が元に戻ってくる
それと共に強い頭痛を感じ、眩しい光とともにグラリと体のバランスが崩れる
少し離れていた笠松も、すぐに気づき持ち前の瞬発力で飲み物を犠牲に彼女を倒れるのを防いだ
『笠松さ…すみません』
「い、いや、気にするな…へ、へーきだ」
『…本当に大丈夫ですか』
女性が苦手な笠松だがさすがに目の前でフラフラな人を前にして放っておける冷たいヤツではない
苗字に対し「む、無理すんな」と動じつつも腕を回し、近くのベンチに座らせ、森山に連絡を取り始めた
『ありがとうございます』
「変な汗かいてんぞ、平気か」
『本当ですか』
「森山呼んだから、それまで休んでろ」
笠松は後輩を励ますときのようにそっと彼女の頭を撫でる
その感覚に、どこか懐かしさを感じながら目を閉じた