第2章 プロローグ
「君の様子は見させてもらっていた」
『…ス、ストーカー』
「違う」
『…どこから見てたの?』
「空からだ」
『はぁ…』
まあ犬が喋ってる時点でありえないことが起きているのだから空から見てる事もありえるか。と勝手に解釈して納得すると彼は犬のくせに溜め息を吐いて腰を落とした
それからテツヤによく似た水色の眼にあたしを映して、口を開いた
「君は会いたい人物がいるんだろう?」
『え…ああ…そう、だね』
「その願い、叶えようか」
『えっ、ほ、本当!?』
思わぬ言葉に喜ぶと彼は「分かり易いね君は」と言いながらクスクス笑って、それからその笑みを消して今までよりも声のトーンを落として「…ただし」と再び話を勧め始めた
「ただし、代償はもらう。君にとって大事なものを」
『…具体例は』
「…もしかしたら声が出なくなるかもしれないし、動物になってるかもしれないし、君が会いたがっている人達の記憶が戻らないようになってしまうかもしれない」
「記憶が戻らない」という言葉を聞いてWCの時まで苦労したことを思い出して、思わず歯を食いしばった
もう忘れられたくないし、あんな他人のように接されるのは、嫌だ。けど
『…それでもあたしは…彼らに、会いたい…さよならしたけど…会えるなら、会いたい!』
「…そうか。じゃあ、いってらっしゃい」
『えっ、あ、おわ!』
瞬間、姿が少しずつあっちの世界のものになっていくのを確認しながら、意識は急にどこかへ飛び始めるのを感じた
そうして意識も姿も完全に消えた瞬間に、オレンジ色の空間は真っ白な空間へと変わった
「…君の意志が本当なら、代償なんて、乗り越えられるさ」
その空間に1匹になった2号の外見をした彼は人間の姿に戻り、ポツリと何かを呟いてどこかへと歩いていった