第6章 退院と
ふと顔をあげた苗字は立ち上がって高まる心臓を押さえながら歩き出し、彼女の半歩後ろを赤司はどこか愛おしい目で見つめながら歩いていた
しかし鈍いのか彼女は全く気づいておらず、むしろ彼に予想外の質問を投げかけた
『赤司君は、好きな人いないの?』
「…好きな人、かい?」
『あ、もちろん恋人とか許嫁がいるとか、既婚でもそれはそれで…』
「いや結婚もしてないし、許嫁もいない」
『恋人は?』
「…さあ、ね」
一本調子で言う赤司は苗字の事を見ているのに遠い所を見ているように見え、答えを聞いた彼女は思わず謝った
また流れる気まずい雰囲気に赤司が小さな声で「好きな人なら、いるね」と呟くと、笑みを浮かべて目を爛々と輝かせてはしゃいだ声で話し始めた
『赤司君好きな人いるの!!?』
「ああ」
『告白は?』
「さあね」
それからどれだけ問いかけてものらりくらりとかわして答えをもらないことが苗字は不満なのか、唇をつまんで「いじわる」と笑っていた。そんな微笑ましいやり取りも苗字の家が近づいてきてしまったため終わりに近づいていっていた
久々に見る家を苗字は寂しそうに見てから赤司へ「ありがとう。また帝光行く時よろしくね」とにこり笑みを浮かべて手を振った
家に入っていく苗字を見送った赤司が来た道を戻ろうと振り返ると、「赤司君!!」と彼を呼ぶ声が聞こえ、苗字が門から顔を出していた
『お互い、頑張ろうね!!』
苗字はそう言って満円の笑みを浮かべて、「今度こそばいばーい!!」と言ってドアを開けて家の中へと入っていった
そんな彼女を見た赤司は口元を緩ませて、少し彼女の家を見つめてから帰路を歩み始めた