第38章 存在は
ボールの弾む音が聞こえてきて指先が動く感覚に気が付き目を開けると、いつか見た体育館の天井が視界に入る
起き上がるといつか時と同じように苗字が1人でシュートを決めており、集中しているのかこちらに気が付かない彼女を見ながら立ち上がった
「おい」
『わ、おはようございます黛さん』
「何で昼間出てきた」
『本当に知らないですって!今何時かも分からないんですから!』
いや体育館に時計があるだろと壁に飾られているそれを見るが、長針も短針も1番上を指したまま止まっている
何の役にも立たないと溜め息を吐いたところで、今日別れた後に赤司から来ていたメッセージを思い出した
「赤司が帝光に行くってよ」
『まあそうなりますよね』
「白雪姫やったのか」
『いや?あの時は涼太…黄瀬が王子様でクラスの女子の誰かが姫役やりましたけど』
「じゃあなんでオレは毎回夢を邪魔されてんだ」
『知りませんって』
そう言いながら苗字はまたシュートを決め、疲れたのか足元に転がってきたボールを拾うことなく手をパタパタと動かし風を送っていた
だが何かを思いついたように扇いでいた手を見つめ始め、何をしているのか疑問に思って見ていれば、次の瞬間うちわが出て来てそれで風を送り始める
『いつ行くんですって?』
「何の話だ」
『帝光に』
「ああ。明日だったな」
『早!?』
「…猶予がもうあと少ししかないからだろ」
『え、そうなんですか?』
「なんも知らされてねえのかよ」
『そもそも黛さんと話す間しか起きてないので』
「夢だけどな」
まだうちわで扇ぐ彼女は「寝てるあたしにとってはこっちが現実みたいなもんなんで」と手で長い髪を後ろに1つにまとめて首に風を送る
夢の中でも暑さや寒さは感じるのかと新しい事実にふーん。と言った感想を抱いていると、今日もまたあの機械音が空間に響き渡る
『起きる時間ですか』
「そうだな」
『じゃあ黛さん、また明日』
彼女の言葉に返事をせずにいると、薄れていく景色に反し大きくなっていく機械音
ぼんやりとする意識の中その音の発信源に手を伸ばし、画面をタッチして音を止めた