第38章 存在は
そのまま火神と雑談をしながら歩いていればすぐに苗字の家の前に辿り着く
電気のついていない家を前に、ここまで送ってくれた彼に向き合った
『送ってくれてありがとう火神君』
「苗字」
『うん?』
「明日、迎え来てもいいか」
明後日の方向を見て話す彼の頬は暗闇の中でも分かるくらい赤く、それに気が付いた苗字の口角が無意識にあがり、そのまま火神に微笑みかけた
『もちろん。待ってるね』
「じゃあまた後でメッセージ送るな」
『ありがとう火神君。気を付けて帰ってね』
「おう。また明日な」
ニコニコと笑いながら彼を見送り暗い家の中に入る
雪さんが実家に帰るタイミングで良かったと考えながら先ほどの言葉を思い出し、苗字の顔から笑顔が消えていく
『また明日、か』
それを言えるのは今日までで、明日にはさようならだと痛感する
ただし自分が知っているのはここまでで、その後どうなるかは2号しか知らない
その後が上手くいかなければどうなるのか、想像すればわかる。恐らく消えてしまうんだろう
『どちらにしろ私は、消えることしかないからなあ』
でも何にせよみんな仲良くしてくれてるのが1番いいと、彼女の記憶もある彼女は考えて自室に入り電気も点けずに赤いリスを手に取る
きっと彼らなら大丈夫だろうと窓を開けると、温い風が吹いてきてカーテンが揺れた
『もう少しだね、赤司君』
遠くから聞こえてくる車の音に耳を澄ませながら星空と夜景を見て、こもった空気を入れ替えるように吹いてきた風を受け止めながら彼女はふうと溜め息を吐く
しばらくそのままでいたが、虫が入ってきたら嫌だと彼女は開けた窓を閉めて、お風呂へと向かった