第36章 花札
ゆっくり目を開けると先ほどと変わらない風景。反対方向に向かう電車が後ろを過ぎ去っていき終電が終わっていないか心配になる
「目覚めました?」
「…どのぐらい経った?」
「電車を1、2本見送っただけです」
「そうか」
急に襲ってきた眠気は完全に消え去っており、時計を確認すると思ったよりも針が進んでいないことに安心しながら体制を直し、体を伸ばした
短時間しか寝ていないのに体が凝り固まるような感覚に追加で肩を回し、夢の中で苗字から聞いた情報を赤司に共有するため口を開く
「あいつ、りんご飴食って眠ったってよ」
「りんご飴?」
「本当かどうか知らねえが、男の子からもらって食べたら男の子が2号に変身して、気がついたら眠った」
この説明で伝わるのかと、聞いた内容をそのまま話すと赤司の猫みたいな目に珍しく困惑の様子が伺えた
目が合っているのに合っていない感覚に別の何かを見つめているのかと、本当にこれを伝えて彼に伝わるのかと疑心暗鬼になる黛に赤司がフッと笑う
「…名前が言っている2号のことは分かりませんが、りんご飴はいいヒントになりそうですね」
「なんか心当たりあんのか」
「りんごを食べて眠ったお姫様の話なら、中学の頃やりました」
言われて有名なあのお姫様の思いつくがと、考えるため赤司は顎に手を添えた
確かにあの時それを題材に劇をすることになったが裏方をやって劇には出なかったはずで、どうすればいいのかは瞬時に答えは出てこない