第36章 花札
『黛さん』
「…っ!」
現れた真っ白な空間と苗字の存在に夢であることを察した
急な眠気はこういうことだったのかと納得しながら目の前にいる人物をジト目で見つめる
「まだ夜じゃねえのになんで出てきた」
『…そんなこと言われても、今何時かも分からないんで』
確かに彼女はこの夢の間だけ意識があり、他の時間には意識がないため何もしていないらしい
なら一体誰が眠らせたのかと疑問に思うが、どちらにしろ目の前にいる苗字は知らないだろう
現実の自分がどうなっているのかと黛はひとつ息を吐き、先ほど赤司が珍しく弱音を吐いていたことを思い出す
「お前はどこに隠れてんだ」
『分からないですって』
「赤司が困ってんぞ。もう行き先の候補がないって」
『そんなこと言われてもなー…あの時会場で2号に眠らされ…あ』
「あ?」
『最後にりんご飴、食べました』
「…りんご飴?」
『好きなんです。りんご飴』
どこで寝ているかを聞いているのになんで最後に食べさせられたものの説明を受けているのかと疑問に思っていると、説明が足りなかったかと気が付いた苗字が追加で説明を始める
『男の子が迷子で一緒に来た人探してたら男の子からりんご飴もらって、食べたら男の子2号に変身して、気づいたら意識失ってました』
「そうじゃない…いやそんなことあんのか」
『黛さんの話してた幽体離脱話の方が信じがたいですけどね』
「どっちもどっちだろ」
信じ難いような話であるが、両者ともに嘘はついていない
その瞬間、真っ白な空間に電車が来るアナウンスが聞こえてくる
いつも聞こえてくる機械音とは違う声に苗字の動きが止まり、どこで寝ているんだという視線で彼を見た
『…どこにいるんですか?』
「駅。赤司と一緒にいる」
『じゃあ征十郎によろしく伝えてください。多分さっきの話すれば伝わると思います』
微笑む彼女の存在が薄くなっていき、代わりに電車の走る音が近づいてくるのが分かる
どれくらい時間が経ったのか分からないか目を開けると、変わらず駅の待合室に座っている状態だった