第36章 花札
練習を終えた赤司がスマホを確認すると、虹村から「病院みたけどいなかった。悪い」と短いメッセージが届いていた
「そうか、いなかったか…」
これで候補は大体、いや全部回ってしまった
苗字は言っていなかったがなにか条件があるのだろうかと考えながら歩いて駅に向かうと、見知った顔が反対側から歩いてきている
目が合うと彼は嫌そうな表情をしたが、赤司は気にせず話しかけた
「黛さん」
「…赤司」
「こんな時間にどうしたんですか?」
「なんでもいいだろ」
「大方今日発売の小説の特装版買いに来たところですかね」
「…分かってんなら聞くなよ」
「店舗限定の特典のペーパーついてるところだと、ここが1番近いですもんね」
赤司からの言葉が図星なのか、返事をしない彼はどんどん足を進めていき駅の中に入っていく
そんな黛の隣に並び歩く最近の彼との唯一の接点であり、今一番の杞憂である苗字の話題を出すことにした
「名前は元気ですか」
「洛山に自分がいないかって言ってたが、もう行ってたよな」
「はい。寮も確認しました」
「そうか」
「もう候補もなく…あとどこに行けばいいのか」
「…珍しいな、お前がそんなこというの」
「ご飯でも行って詳細話しましょうか?」
「さっさと帰って小説読む」
人付き合いが悪いと言うか、自分のペースを乱さない彼に赤司が「そうですか」と笑いながら言う
改札を通り抜けホームをに向かっているところでちょうど電車が発車してしまい、次の列車が来るまでエアコンが付いた待合室で待つことにし、並んで座る
待ってる間先ほど買った小説を読もうかと手提げから出そうとすると、急に瞼が重くなった
「…ぐ」
「黛さん?」
「急に、眠気が」
彼はそのまま瞼を閉じ、眠りにつく
驚いたが息があることを確認し、夢の中でのみ苗字と話すことが出来る彼の特殊な状態から彼女が呼んでいるのではないかと推測する
赤司はやって来た電車をあえて見送り、黛が目覚めるのを待つことにした