第36章 花札
「いやわかんねえ…」
役を覚えられない虹村が机に突っ伏す。神経衰弱のように同じ柄が取れるのは分かった
だが役が覚えられないとカスばかり集まった彼の隣で木吉が軽快に笑う
「役を覚えるまではな!そんなもんだ!」
「スマホゲームとかでやって覚えてくれ」
「赤司とか得意なんだろーな…」
「赤司?あの赤い髪の子か?」
「…知ってるんですか」
「おお、お嬢ちゃんが紹介してくれたからな」
「お嬢ちゃん?」
「去年の春と年末個室で入院しとった子じゃ。あの子も花札強かったのう」
机に突っ伏した虹村が上体を起こし、そうだ苗字を探しに来たんだと本来の目的を思い出す
今目の前の人物が話している内容を聞くに、ここに彼女がいる可能性があがったのではないかと昂りそうな気持を落ち着けた
「今そいつ、入院してますか」
「いや聞いとらん。今個室は空いているはずじゃな」
「…悪い木吉、少し見てくる」
「おう、気を付けろよ~」
木吉の膝について受診しなくて良いのかは疑問だが彼を置いて病院内を走らない程度に急いだ
ちょうど掃除しているのか部屋の扉は空いており、換気のため空いている窓から吹いてくる風がカーテンを揺らす
だが、そこに彼女は姿がない
「やっぱいねえか」
昂った気持ちが一気に沈んでいく。大きいところで言えば最後の候補だった場所
グループで黄瀬と桃井が騒ぎそうだと溜め息を吐き、流石に入れない病室を後にして廊下を元気なく歩き、先ほどのロビーに戻った