第34章 ここで彼らは
目を開けると高校の頃過ごしていた寮の自室の机に突っ伏して寝ていた
ああ夢かと瞬時に納得し、夢にもかかわらず凝り固まった体を動かすと、いつもなら声を掛けてくるはずの人物がベッドの上で寝ていた
「…苗字」
髪を乱して倒れているところは見たことあるが、彼女の眠っている姿を見るのは初めてだった
某死神のように付きまとわれていた時は眠くないと言って寝ていなかったし、それ以降寝ているところを見る機会がなかったので珍しいものを見たと少し観察してから彼は声を掛ける
「おい」
『はっ…ま、黛さん!』
「…お前を起こすのは初めてだな」
『は』
「眠くなくってずっとラノベ読んでた話しただろ」
起き上がった彼女はオレンジ色の髪に手櫛を通して黛の話を聞いていたが、その一言でぼんやりと脳裏に何かが映る
今より若い、というより幼い黛と今と同じ格好をしている自分がこの部屋や屋上で過ごしたり、体育館でタオルを渡したりしている姿が見え、立ち上がろうとした彼女の動きが止まった
『…黛さんの忘れたタオル届けに行ったりしました?』
「…お前」
『多分全部じゃないです。一部分だけで』
「迷惑かけたの思い出したか」
『いやいや起きない黛さん起こしたり、忘れ物届けたりいいように使われてたと思うんですけど!?』
その瞬間、初めて見る自嘲的ではない彼の笑みに驚いて思わずバランスを崩しベッドに受け止められる
「…相変わらず短パン履いてんのか」
『履いてますけどそういう確認わざわざしなくても良くないですかね?』
まったくと体制を直していると、いつもの機械音が聞こえてきた
もう起きる時間かと見ると、彼も自分も周りの景色も薄れていく
「今日は早いな」
『眠る時間が遅いのでは?』
その答えに回答をもらえないまま意識も薄れていく
きっと次目を覚ます時もまた黛の夢の中だろうとぼんやりと考えながら、今日も彼女は意識を手放した