第34章 ここで彼らは
ボールの弾む音がする。練習か何かかと思っていたが、意識が浮かんでくると床と靴がこすれる音も、ボールの弾む音も明らかに少ないことに気が付く
ああ、自主練かと浮かんでくる意識と共に目を開けると体育館で、天井からの眩しい光が差し込んできた
ボールの弾む音、ネットを潜る音、外れる音が全くしないと上体を起こすと、白いブレザーを脱いでひたすらシュートを決める苗字がそこにいた
「おい」
『黛さん、おはようございます』
「なんで今日は体育館なんだ」
『あたしに聞かれても。ここは?洛山の体育館ですか?』
「ああ」
『へー、体育館ってどこもあまり変わらないから不安で』
「去年来ただろ」
『…確かに、来ましたけど』
先ほども言ったがどこも体育館は似ているから一目見て分かるわけではないし、そもそも1回しか来たことない似たような場所を見分けろと言うのは難しいと、苗字がボールを弾ませる
立ち上がった黛がその様子を見ながら、懐かしむように目を細めた
『何かありました?』
「いいや」
『なんか、いつもより視線が優しい気がして』
そんな目をしていただろうかと彼は眉間に皺を寄せていると、弾ませていたボールをゴールに向かって放り、あの時のようにリングを潜らせた
床に落ちたボールはまるで意思があるように黛の足元に転がってくる
知らぬ間に履いていたバッシュにぶつかったそれを取り、苗字に投げると分かっていたかのようにキャッチした