第32章 可能性が高いところから
『戻ってくるなら冬が良かったなあ。ハンドクリーム使えないし』
「…夏でも使えばいいだろ」
『ネクタイも使わないでしょ?』
「クールビズだからな」
けらけらと笑っていたが一瞬彼女がした悲しそうな表情を火神は見逃さなかった
やはり苗字も消えたいわけではないよなと考えていると、向こう側に座る苗字よりデカいパフェが運ばれてくる
スプーンが2個ついているそれは明らか2人前を超えており、思わず口元に手を添え笑い出してしまった
『ふふ、すごいパフェ』
「このくれー余裕だろ」
『ちょっともらってもいい?』
「普通に食っていいぞ」
言葉に甘えて上にあるイチゴと生クリームを救い、一口入れる。生クリームの甘さとイチゴの酸味が広がっていく
美味しそうに頬張る彼女を見て安心したのかふうと一息ついた火神は、自分の中でもやもやしていた気持ちが消えていき、先ほど「それではだめだ」と言っていた彼女の話を思い出した
「さっきの話、黒子とか赤司に話しても平気か?」
『それじゃだめってやつ?』
「おう」
『うん。私が消えてないから大丈夫。話してあげて』
「…舌緑色になってんぞ」
『わ!メロンソーダ飲んだからだ!』
そのまま火神が9割、苗字が1割パフェを食べ、食休みをしてから買い物に戻った
途中黒子から来た「見つかりませんでした」というメッセージに残念な気持ちの裏に安堵するような気持が混じり、それを表に出さないようにしながら彼女のことを家まで送り届けた