第32章 可能性が高いところから
『それじゃ、だめかな』
「…だめ?」
『うん。だめ。それぞれ役割があるからね』
「どういうことだ」
『それ、は』
急に彼女が耳を押さえる。頭痛か何かと思い心配し声を掛けたが、大丈夫だと目線と動作で訴えてきた
すぐにその手は下ろされ、様子が戻った彼女は申し訳なさそうにヘラリと笑う
『これ以上話しちゃうと答えになっちゃうから、言えないみたい。ごめんね』
「大丈夫か」
『うん。喋っちゃいけないこと話そうとすると耳鳴りするの。キーンて』
「耳鳴りだけか?」
『耳鳴りだけ。だから大丈夫』
話しすぎると2号に消されるらしいと赤司が言っていたのを思い出す
それも本当かわからないが、火神に今のが演技とは思えない
それよりもその前、火神が目の前にもいるのに誰が行くかを確認し、その上で「だめ」だと言っていた彼女に1つ察したものがあった
「今回、オレは必要ないんだな」
『…火神君の役割は私の見張りだからね』
「なんだよそれ」
『私たちは見てるだけでいいんだよ』
クリームソーダのガラスに結露した水滴が垂れていく
コースターに吸い込まれていく水はまるでもともとなかったかのように消えてしまった
「苗字が戻ったら、またお前消えんのか」
『…うん。そうだね』
分かっていた。けど改めて聞くとやはり心が針で刺されたようにチクチクと痛みを感じる
分かりやすく悲しそうな顔をする火神に苗字が笑う。あの時もそんな表情をしていたなと大晦日の出来事を思い出し、こぼれそうになっているクリームソーダのアイスを掬った