第32章 可能性が高いところから
「桃井、女子更衣室見て来てくれるか」
「あ、うん」
「ワリイな、オレたちが入るわけに行かねえから」
「これくらいなら全然、任せてください」
鍵を開け扉を引くと、昔ここで恋バナしたり、お菓子を食べたり、青峰の愚痴を聞いてもらったなと桃井が懐かしい気持ちになる
ロッカーなどを開けたわけではないが、ここに探している彼女はいないと何となく、そんな気がした
「名前ちゃん」
小さな呼びかけは返事がなく、誰に届くわけでもなく消えていく
戻ると既に部室の探索が終わった男性陣が桃井を待っており、いつも通りの彼女の様子にいなかったことを察する
「いなかったですか?」
「うん。なんか、いる気配がなくて」
「女の勘か?」
「勘なんですかね…いない気がして…」
「オレも桃井に同感だ。ここに名前はいない気がするね」
「…体育館、行きますか?」
「そうだね」
残すは本命の体育館だけとなる。見つからなかったらどうしようという不安と、いるという期待を胸に抱き、体育館の前に立つ
全中の期間のため静かな体育館を開けると、楽しかった思い出とわずかな苦い思い出が蘇ってくる
あの時もこんな風に静かな体育館で彼女は消えていったと鼻の奥がツンとするような感覚を表情に出さないようにしながら、赤司が体育館の中に足を踏み入れた