第32章 可能性が高いところから
『黛さん』
呼ばれた名前にゆっくり目を開けると、白い天井ではなく青空が広がっている
いつもの夢じゃないのかと起き上がったが、何も変わらない帝光の制服を身にまとう苗字が困ったように佇んでおり、景色がいつもと違うことに気が付いたのと同時に彼女が口を開く
『なんか今日、屋上なんですよね』
「…は」
周りを見ると昔部活を行っていた体育館が目に入り、当時彼が入り浸っていた屋上であることに気が付く
「洛山の屋上だな」
『ああ、なんとなく傘の記憶と重なるなと思ったんですよね』
「屋上なんてどこも一緒じゃないのか」
『少し違いはありますよ』
急にどうして屋上に来たのか、どうして洛山の屋上に選ばれたのか、疑問が浮かぶ
もしかしたらヒントか何かなのだろうかと推測していると、視界の端で苗字が何かを探すように動き回り、何かを確認するため黛の方へ振り返る
『ここに落っこちて来たんですか?あたし』
「…勢いつけてな」
あの驚きは昨日のことのようだと、小説を読んでいた時に目の前に人が落ちてきたあの衝撃を思い出す
ただ目の前にいる当の本人は落ちてきたとき意識がなかったから知らないだろうと屋上の柵に寄り掛かると、聞きなれていたチャイムが鳴り響いた
校庭を見るが特に人はいない。静かだったし授業が終わった合図かと推測していると「そういえば」と苗字が何かを話し始める