第32章 可能性が高いところから
「赤司っちに部屋見ろって言われたけどー…やっぱいないっスよねー」
彼女が黄瀬の家にあがったのは1回限り。ピアスを開けようと思ったけど怖くて出来なくて、でもやめる訳にもいかず苗字に連絡したからだ
思い出深い所をそれぞれ当たってくれと言われ、確かにこの部屋も思い出深い所に間違いはない
彼が一緒にピアスを開けて、告白したところだから
「…あれからもう…5年!?やば!」
あの時は中学3年生で15歳、今年彼はめでたく20歳を迎えたのだから当たり前なのだが、あの時のことは昨日のように思い出せる
いや、あの時の事だけではなく、あの日々がと言った方が正しい気がした
「あとはインターハイの会場かな。ちょっと遠いけど」
けどそこにはいない気がすると、黄瀬の中の何かが言っている
彼女は大事で大好きだ。けどきっとそれは、赤司に隣に立つ彼女が好きなんだろうと、年始に観覧車の中で虹村に言われた言葉を思い出す
「伝えるだけが愛じゃない」
もうこの5年以上の月日。きっとこの感情を同じ年月抱いている人物が他にもいることは知っている
小人数で帝光に行くのは知っているが、叶うなら見つけてすぐに「おかえり」と言いたかったと、黄瀬は頬を膨らませた
「あー、オレも帝光行きたかったなー!!」
大声が聞こえていたのか、姉から「うるさい!」と声が響く
今日の練習の荷物がはいったカバンを持ち、姉に謝りながら家を出て熱い空気の中大学に向かって歩き始めた