第31章 彼女の存在
赤司との約束のため電車から降り駅構内を歩いていると、見知った顔がこちらを向いて誰かを探している
そんな藍色の瞳をこちらに向ける彼女になぜいるのかと驚きながら改札を出ると、向こうから近づいてきたので思わず足を止めた
「苗字、」
『黛さん、ご無沙汰してます』
「…お前、消えそうなんじゃないのか」
『消えそうなのは本物の方で』
「じゃあお前は」
『一時帰国みたいなものですかね?』
「何の用だ」
『黛さんと赤司君が会うって風の噂で聞いたから、挨拶しようかと』
以前会った時とはずいぶん雰囲気が変わり、むしろ本物に近くなった気がする
だが結局本物とは未だに直接会ったことないなとぼんやり考えながら、寝不足の不満を彼女にぶつけることにした
「もう1人に夢に出てくんなっつっとけ」
目の前の彼女がキョトンとした顔をしており予想と違う反応に黛が驚いていると、点と点が繋がった苗字がフッと笑った
『やっぱり黛さんが選ばれてるんですね』
「…は」
『2号が出てきたって聞いた時からそうかなと思ってたんですけど、まあ彼も理由があるみたいですしね』
「彼、って誰だ」
『あ』
今度はしまったといった分かりやすい表情をする苗字が口元に手を添えてから、誤魔化すように微笑んだ
『…赤司君にその話、してあげてください』
「おい」
『じゃあまた』
彼女は逃げるようにその場を去り、改札に入っていく
わざわざこのために来たんだろうかと考えながら夢の中同様の振り回されて疲れた感覚に溜め息を吐き、赤司と約束したファミレスへと歩き始めた