第31章 彼女の存在
「…はー」
寝たはずなのに寝た気がしない。枕でも変えた方が良いんだろうかと思うが、あの夢なのに夢じゃない感覚は年始に感じたものと同じで間違いない
顔を洗い、身支度を整え終わったところでその時も連絡した男に電話をかける
「珍しいですね、黛さんから電話なんて」
皮肉にも聞こえるような赤司の一言にこちらの言葉が詰まる
他の奴らが用もないのに連絡を取りすぎてるんだろうと自分が所属しているグループのやり取りを思い出し、溜め息を吐いた
「用がある時しか連絡しないだけだろ」
「そうですね。ということは何かあったんですか?」
「苗字が夢に出てきてる。犬が出て来た時と一緒の感覚だ」
今度は赤司の言葉が詰まり、沈黙が流れる
住宅街にも関わらず外で鳴くセミの声がよく聞こえ、外が今日も暑いのが想像でき嫌気が刺した
「…詳しく聞いてもいいですか?」
「何かあるのか?」
「名前が、消えそうなだけで」
電話の向こうの赤司の声がいつもより低く、元々冗談を言うタイプではないが本当の事なのかと言葉を失った
本人の記憶が戻ったと思ったらまた面倒なことに巻き込まれているのかと、夢の中で会った苗字の姿を思い出す
「黛さん、少し会えませんか」
「はあ?」
「どこかに隠れている名前を探せと言われているので、黛さんに会えば何か分かるかと」
「…」
「オレが部活終わった後、どうでしょう」
「何時に終わんだ」
「19時ごろですかね」
「…勝手にしろ」
「駅前のファミレスで待ってます」
「ファミレスでいいのか?」
「ダメでしたか?」
「…いや、赤司がいいならいい」
夕飯を食べるつもりなんだろうかと、集合場所を確認し電話を切る
窓の外を見れば今日も太陽がジリジリと世界を照らしており、こういう日はエアコン付けて日が落ちて涼しくなるまで部屋にこもるに限ると、読みかけの小説を棚から取った