第30章 久しぶり
「紫原、来た時より買ってんじゃねえの」
「とかいいつつ青峰っちもチキン食ってるじゃないっスか」
「えー、火神よりは少ないと思うけどー」
「どっちもどっちなのだよ」
去年と変わらない様子に笑う
きっと彼らは苗字が消えてしまったことは悲しいだろう
それを顔に出さない彼らはそこも変わらず優しいんだなと、桃井と繋いでいる手にありがとうの意味を込めてほんの少し力を入れる
すると桃井が彼女に微笑み返した
そんな花火が終わった直後とは打って変わった雰囲気のまま歩いていると、徐々に人が減っていく
青峰と桃井と別れたところで、苗字が赤司の横に立った
『赤司君、送ってくれる?』
「…火神じゃなくていいのかい?」
『火神君とはまた別の機会で話すよ、ね』
「…おう」
そのまま残ったメンバーに手を振り、見えなくなったところで赤司と2人になった苗字が溜め息を吐く
疲れたのだろうかと気にした彼が横を向くと、溜め息が聞こえてしまっていたことに気がついた彼女が照れ隠しのように笑った
『ごめんね、安心しちゃって』
「安心?」
『受け入れてもらえて良かったって』
「どういう意味だ?」
『うーん…お前じゃない!って石投げられたらどうしようかと思ってた?かな?』
「…そんなことされると?」
『ちょっと不安に思ってた。けどみんな優しいから杞憂だったね』
ニコニコと笑っている苗字の表情とは対照的に、赤司は申し訳なさそうな顔をする
どうしてそんな表情をするのかと彼女が首を傾げると、いつもより自信なさげな声で彼は問いかけた
「なぜ自分も消えることをみんなには言わなかったんだい?」
『…言いにくかったからかなあ』
「そうか」
『でもみんな分かってると思う。どちらかしか存在できないって』
何となく察しているだろうと、赤司の脳裏に一人の人物が思い浮かぶ
その人物はどうしているのだろうと考えていると、あっという間につい先ほど迎えに来たような感覚の苗字の家の前に辿り着いた