第29章 りんご飴
追って花火が何発か空に上がる。一足先に立ち上がった彼女はもう1発あがった花火を見ながら去年の記憶を思い出し、膝をつく赤司に視線向けた
苗字が消えるのは初めてではない
だが何度目であっても好きな人がいなくなっていくのは何かに心を掴まれたように胸が痛む
そんな膝をつき悔しそうにしている彼に周囲の視線が集まっていたので、彼女は手を差し伸べる
『一緒に戻ろう赤司君、話せることは限られてるけど私も力になるよ』
「なら、消さない選択肢をくれないか」
『私が決めてるわけじゃないからなあ…決めてる人に言ってくれないと』
「…もう1人いるのか?」
『あー…ごめん聞かなかったことにしてくれる?』
どういうことかと分からない赤司が苗字の手を借りず立ち上がり、浴衣についた砂を払う
その様子を見ながら藍色の髪を揺らしほほ笑む彼女が隣に立ち、共に歩き出す
空に綺麗に花を咲かせ消えていく花火を見ながらぽつりと、打ちあがる音にかき消されそうなほど小さな声で呟いた
『あんまり話し過ぎると、消されちゃうんだ』
「…そうか」
『まあどちらにしろ私は消えるんだけどね』
大きい花火が打ちあがる音で所々聞こえなかったが、それだけははっきり聞こえた
上がった花火の光が彼女の顔を照らし、微笑んでいるのに悲しそうな表情に赤司が何も言えず息を呑んでから彼女に問いかける
「不快になる質問かもしれないが、消えると分かっていて今生きてるのはどういう感情なんだい」
『うーんもう既に1回消えているからね。なんか変な気持ち』
「…嫌ではないのかい?」
『残れるなら残りたいけどー…まあそのつもりで来てるから、ね』
まるで言い聞かせるように言う彼女がへらりと笑い、その顔をまた花火の光が照らす
その表情が何かを誤魔化す時に苗字と同じ笑い方で、心の奥をぎゅっと掴まれたように胸の奥が痛んだ
『それにしても本当に混んでるね、戻れるかな』
「戻るのやめるかい?」
『ううん。みんなに話さなきゃいけないことがあるからね、行かないと』
「そうか」
盛り上がって来たのか打ち上げ花火だけでなく色々な花火があがり始める
声が通らなくなってしまったので話すことを諦め、そのまま赤司と花火を見ながら歩いた