第29章 りんご飴
『大丈夫。死んでないよ』
そんな聞きなれた声に赤司が振り向くと、藍色の髪をした苗字が腕の中にいる彼女と着ていたものとは違う浴衣を着用して立っていた
あれは恐らく去年彼女が桃井と購入したものだ
周りの人はまるで時が止まったかのように動かず静かで、見たことない不思議な状況の中を歩いてきた彼女が赤司の近くに屈む
『久しぶり、赤司君』
「藍色の、名前」
『ごめんねせっかくの夏祭りだったのに』
申し訳なさそうに笑う苗字と同じ顔をした彼女が赤司が腕の中で眠っている
同じ人物のはずなのにどうして目の前にいるのかと、何かを察して彼女を守ろうとする赤司が腕の力を強め、それを見てまた口角を上げてから口を開く
『最後の試練だよ。赤司君』
「…試練?」
『その子の期限はあとおよそ1ヶ月、夏休みが終わるまで
それが過ぎたら、この子はまた元の世界に戻ることになる』
赤司の目が見開かれる
その瞬間に腕にいた苗字が光の粒のようになり消えていき、腕に感じていた重さがなくなりあげた手のひらは空を掴んだ
『大丈夫。赤司君ならすぐ解決できるよ』
「待て、オレは何をすればいい」
『どこかで寝ているあの子を見つけて目覚めさせればいい。それだけだ』
「…だいぶ難しそうだね」
『海外とかに寝かせてるわけじゃないよ、安心して』
周りの人たちが動き始め、計ったかのように花火があがる
大きい音と綺麗な光に上を向く人がほとんどの中、赤司だけが下を向いていた