第29章 りんご飴
「りんご飴食べていいよ?」
『ありがとう。あとで食べようかな』
「えー今食べないの!?」
『押しが強いな』
「食べていいよ」
『…ありがとうじゃあもらうよ』
ビニールを外し、りんご飴に噛り付くと飴の独特な甘さとみずみずしいりんごの食感がした
だが飲み込んだ瞬間に力が抜けていき、苗字が膝をつく
「ダメじゃないか、知らない人からもらったものを食べたら」
急に変わった声に視線を上げると先ほどまでの子供の姿はなく、見たことある犬が彼女の視界に映った
『…に、ごう?なんで』
「君は動物園で子供を助けてたから、これなら信じてくれるかと思ってね」
『大当たりじゃん。何?また消えるの?あたし』
「そうだね。消えてもらおうか」
『敵なのか味方なのか、わかんないなあ…』
周りの人たちがこちらに見向きもせず歩いていくのを横目に、力が抜け地面へと倒れこんでしまう
でも知っている。征十郎なら迷子になっても見つけてくれる
そうだと信じながら重たくなる瞼をそのまま閉じ、眠る時のように意識を飛ばす
「おやすみ。名前」
人が倒れているにも関わらず誰も見向きもしない不思議な状況、2号はしばらく彼女を見つめていた
だが走ってくる誰かの気配を察しりんご飴の棒の部分を咥えどこかへと逃げていく
そんな小さな存在に気が付かないまま赤い髪を揺らした彼が、オレンジ色の髪を乱して倒れている苗字見つけて目を見開いた
「名前!」
駆け寄りそのまま上体を起こすが目を覚ます様子がない
オレンジ色の髪に生える赤い髪飾りを取り、いつかの病室の時のようだと赤司が下唇を噛みながら彼女を抱きしめると、そこに1人歩いてくる影があった