第29章 りんご飴
『あちゃあ…』
下駄を拾いあげ邪魔にならないよう避けた先が出店方面に向かう人の列だったため、振り出しに戻ってしまった
すっぽ抜けた下駄に気を取られたことが良くなかったんだろうと、赤い髪が視界に入らない彼女は困ったように頬を掻く
『スマホもダメかぁ…』
メッセージが送信エラーになり、電話も繋がらない
人が多いからかと周りの状況を見て溜め息を吐き、みんながいる場所に戻ろうかと歩き始めようとすると、何かに手を掴まれ後ろに引かれる
振り返ると甚平を着て袋に入ったりんご飴とわたあめを持っている絶賛お祭り満喫中の男の子が涙目で袖を掴んでいた
「…おねーさん」
『おお、迷子かな?』
「迷子じゃないよ」
『…迷子じゃないかあ』
じゃあその泣きそうな瞳は何なんだと視線を男の子に合わせるため屈むと、下唇を噛んでいることに彼女が気が付く
迷子じゃないと言い聞かせ泣くのを我慢しているのかと微笑みながら頭を撫でた
『じゃあお姉ちゃんが今迷子でさ、一緒に探してくれるかな』
「おねえさん、迷子なの?」
『うん。はぐれちゃったんだ。寂しいなー泣いちゃうなー』
「じゃあ僕が探してあげる」
『わーい!ありがとう!』
絶対に立場逆だろうと思いながら小さな手を握り歩き出す
お母さんかお父さんかと来たんだろうかと聞きたいが、迷子じゃないと言っているあたりまだ聞かない方が良いだろう
そんな考えを持ちながら苗字が小さな手の持ち主を見ると先ほどの不安そうな表情は消えていた