第5章 彼女の想い人
そのままジッと夕日を見ている彼女に桃井がまた「名前ちゃん、どうしたの?」と問いかけると、彼女は夕日を見ながらポツリポツリと、話を始めた
『私ね、夕日見てると…なんか…懐かしい気持ちになるんだよね…』
「夕日に?」
『なんて言うか…赤に…惹かれるの…何でかな…色なんてたくさんあるし…好きな色は…私、違うのに…』
そうポツリと言った苗字の言葉に反応した桃井はガタッと立ち上がって、「赤司君は!?」と声をあげた
それに彼女に目線を向けた苗字はポカンと口を開けてから、少し悲しそうな表情をしてお茶を啜り、話を始めた
『赤司君は…私を見ると悲しそうな顔をするの…だから…嫌いなのかなぁって思う』
「違うよ!」
『…え?』
「赤司君は…赤司君は名前ちゃんのことが…名前ちゃんがっ…」
言おうとしたけれども口止めされているため桃井は「…何でもない、ごめんね」と言って椅子に腰を掛け、クッキーにまた手を出した
「美味しいね」とポツリ呟いてから、視線を彼女と同じように夕日に向けた
「名前ちゃんは赤司君のこと好き?」
『…うん、好きだよ?』
「きーちゃんや…テツ君も?」
『うん。好きだよ。みんな好き』
「かがみんや誠凛の人も…虹村さんも?」
『好き、だけど…火神君は、何か違う気が…する』
「…え?」
『嫌いじゃないんだけど…何だろう。よく分かんないや』
へらっと笑う彼女に桃井が目を見開くと、彼女は「何かね、見ていると懐かしい気持ちになって、落ち着くんだよね」とクッキーへと視線を移して言った
『これが、恋なのかなぁ』
そうポツリ呟いた彼女の声はギリギリ聞こえた程度のか細い声で、その声を聞いた桃井は歯を食いしばって、涙が浮かびそうになるのを必死に抑えて、彼女にそっと笑みを作った