第5章 彼女の想い人
その何日か後、夕方に桃井が珍しく1人で彼女の病室に訪れると苗字はベッドの上で熱心に何かを書いており、桃井が入ってきた事に気づいていないようだった
夕日をバックにした彼女の髪は少しオレンジ色に染まって見えて、桃井は「やっぱりオレンジ色の方が似合うなぁ…」と思いながら彼女に近づいた
「名前ちゃん!」
『わっ、あ、さつきちゃん。いらっしゃい、今日は1人なんだね』
「たまには名前ちゃんと2人で喋りたいなーって思って!」
そう言った桃井は椅子に座って彼女の机の上にある何かを見ると、それは彼女から苗字にプレゼントしたプロフ帳で、それを見た桃井は笑みをこぼした
「それ、役立ってる?」
『うん!ものすごく役立ってる!この間誠凛の皆さんが来た時に褒められたんだよ』
「私情報収集とか得意だから、これくらいしか名前ちゃんのこと支えられないんだけど…」
『ううん、これ以外にもたくさん助けてもらってるよ』
そう言った苗字は1つ1つ指を折りながら説明して言って、後に「えっと…とりあえずたくさんあるんだよ」と誤魔化すように笑った
そして「そう言えばまだおやつ食べてなくてね?この間火神君からもらったクッキーがあるんだけど…」と冷蔵庫に行こうとベッドから降りようとすると、彼女はふと動きを止めた
『夕日、だ』
「うん…夕日だね」
『もうそんな時間だったんだ、気付かなかった』
そう言う彼女はジッと夕日を見つめ動こうとせず、不思議に思った桃井が「名前ちゃん?」と不思議そうに問いかけるとハッとしたようにベッドから降りてクッキーを取りに行った
ついでにと飲み物を出した苗字はいつものように紙コップの前に注いで、テーブルの上にクッキーと一緒に「どうぞ」と置いた
「え、これかがみんの手作りなの!?」
『うん。すごいよねーとっても美味しいもん』
そう笑いながら言う苗字はクッキーを食べ始めたが、また窓へと視線を向けて外の様子を見始めた