第24章 動物園
予想外の事態に彼女の肩が跳ね、赤司とつないでいた手が振りほどかれる
挨拶しようとするが緊張しているのか驚いたからか声が出てこず、今日も素敵な笑顔を浮かべる彼に先にお辞儀だけこなす
「久しぶりだね名前君」
『ごぶ、ご無沙汰してます…』
「まさか征十郎と交際しているとは、驚いたよ」
『…は』
聞いていないと、斜め後ろに立つ赤司を見る苗字の顔は赤くなったり青くなったり忙しそうだ
「言っちゃまずかったかい?」
『ま、まままままずくない。けど、え?』
「雪さんにも伝えてあるよ。挨拶も済んでいる」
『っぐ…いつの間に…』
最近自分を見る親の眼が優しいと思っていたがこれかと、そりゃ合鍵渡され…いや普通娘の彼氏に合鍵渡すか?
考える彼女の前に立つ赤司の父が、嬉しそうに笑いながら下ろしていた手にある紙袋を胸元で見せる
その間に赤司がお返しを自室まで取りに行くらしく、靴を脱いでどこかへ消えてしまった
「名前君にチョコのお返しを渡そうと思ってね、良かったらもらってくれるか」
『いつももらってばかりですみませ…ん?』
「ハンドクリームだ。ありきたりで申し訳ないね」
『ありきたりでって言うか…』
渡されたのは小さなギフト袋だが、外側に入っているロゴは大学生が手を出すのは金銭的にチャレンジが必要なブランドであった
いくら何でも5桁のハンドクリームを買おうと思ったことがない苗字の手が震える
嬉しい気持ちはもちろんあるが、どうしようという気持ちが彼女の心を支配していた
『…あの、さすがに、流石に高価すぎません?』
「不満かな?なら私が使うが」
『不満ではないです!恐れ多いだけで』
「ならもらってくれ。いい香りなんだ」
『…ありがとうございます』
どうしよう、もったいなくて使えないと袋を凝視していると、そこに赤司が戻ってくる
彼も小さなショップ袋を持っており、苗字の頬が引き攣った