第23章 チョコを配ろう
何とも言えない表情をした火神がケーキを自分側に寄せると、目頭が熱くなった
消えてほしくなかったという思いがあるが、今目の前にいる彼女が消えてほしいわけではない
いっそ2人ともいればと出来もしないことを考えながら、改めてお礼を告げた
「ありがとな、アイツの意思汲んでくれて」
『まあ本人だし』
「いや別人だろ」
『え』
「アイツも言ってた。別人だって、そもそも苗字の想像で生まれたんだからな」
確かにと、2号があの時言っていたことを思い出す。忘れたがっていたという願いを叶えて生まれた彼女
赤司の推測では元々この世界にいるべき苗字だったが、2号が言うならそうなんだろうと納得する
『じゃあ用も済んだし帰るよ』
「ああ、ありがとな」
『作ったのはあたしなんだから味わって食べてよね』
「…こんなの1分あれば食えちまうだろ」
『ゆっくり食べて!ふわふわにするの大変だったんだから!』
「わかった。ゆっくり食うって」
一気に軽くなった紙袋をまたもや赤司がスマートに苗字から取っていき、先に玄関へ向かって行く
そんな彼らの様子を火神は見慣れていないがなんだか妙にしっくり来る
2人をそのまま見送り、締まった扉を見た彼は鍵をかけて、もらったシフォンケーキを冷蔵庫へと入れた