第21章 おかえり
真っ白な空間から真っ暗な空間へと戻ってくる。目が慣れていないだけだ、視界が闇に慣れてくると昔過ごしていた風景が目に入る
『本当に来たんだなあ…』
「あいつらに連絡していいか?」
『えー…なんか恥ずかしいな…』
「とりあえず病院抜け出したこと心配してるから連絡するな」
『聞いた意味』
カバンの中を探すがスマホはない。そういえば位置情報が取得されるかもとか怖がって置いてきたんだと苗字は思い出す
ただカバンの中から文庫本が出てきた
『…黛さんの小説』
彼は一体何の接点があるのかと悩む。1度インターハイの会場で腕を掴まれたが、あの時は決勝リーグより先の記憶が消されていた
覚えてなくてもしょうがないのだが妙に引っ掛かると、まだ完全に起動していない脳で考えつつ、歩きながら本を読むのはまずいと知っているのでとりあえずもう1度カバンに眠ってもらうことにした
「あいつら病院で待ってるってよ」
『こんな夜にみんな集まるの?申し訳ないな』
「逃げるか?」
『振り出しに戻ってるよ』
火神が楽しそうに笑う。藍色だった時にはあまり見れなかった表情だったとふと考える
そこから火神と病院に向かうと雪が外で待っていた
『お母さん』
「名前ちゃん!無事でよかった!」
抱きしめられる感覚が懐かしいと思う。血はつながってないが、彼女には本当にお世話になっていた
向こうの世界でも思い出すことは多々あった。ただいない間彼女は苗字のことを忘れている。寂しい思いはしていないだろうと、腕を回し抱きしめ返す
『怒らないんですか?病院逃げだしたのに』
「心配はしたけど、逆の立場なら私も逃げ出すわ。戻ってきたしオッケー」
相変わらずテンションが高く若いと思う。腕を離されて顔をまじまじと見られるが、雪は嬉しそうに笑った