第20章 消えた彼女
『初めて火神君、私のこと好きって言ってくれたね』
「…言ってなかったか」
『うん』
「悪かったな」
『ううん、私もきっとこの子が赤司君のこと好きじゃなかったら火神君のこと好きじゃなかったかもしれないし』
「…人が小っ恥ずかしいこと言ってんのになんなんだよ」
『でも火神君でよかったよ。あの中で1番常識人な気がするし』
「どういう意味だ」
本気じゃないだろうが怒る火神に少し笑ってしまう
こうして普通に話しているのにあと少しで消えてしまうという事実をどうしても忘れることが出来ず、抑えていた涙が目尻から溢れてくる
『…嘘、私結構火神君のこと好きだったと思う』
「お、おい。泣くなよ」
『ごめん、笑顔でさよならしようと、思ったんだけど』
向かい合う火神の手をそっと自分の両手で包み込む
暖かなオレンジ色の光が苗字の周りに浮かぶ。まるで眠気が襲ってくるように、意識がふわふわしてきた
『火神君』
「おう」
『好きだよ』
「…おう」
『付き合ってくれてありがとう。私のこと、忘れないでね』
「忘れたくても、忘れられねえよ」
『…うん、じゃあ。さよなら』
「またな。だろ」
「うん。またね、火神君」
彼女はオレンジ色のひかりと共に消えていった。火神の左手を包んでいた温もりとともに
目が潤む。泣いているところは見られたくなかった
彼女は消えたが、ポケットに入っている青いネコは消えていない
存在を確かめた火神は袖で涙を拭い、ただただ傍観していた犬を見る
「2号、いなくなったぞ」
「ああ、そろそろ彼女も起きるだろう」
「お前はなにもんなんだ」
「どう見ても犬だろう」
「そういう意味じゃねえんだ…えーっと」
火神が言葉を探していると2号の後ろで寝ている彼女の指がピクリと動く
ゆっくりと瞼を開け、ぼーっと何もない空間を見つめていた