第20章 消えた彼女
ようやく涙が止まって落ち着いた彼女は、2号が言っていたことを思い出す
『体、返しに行かなくちゃ』
「返しに行く…のか?」
『火神君も着いてきてくれる?』
「…おう」
臓器の取り出しやホラーなことに巻き込まれるんじゃないかと火神がびくびくしながら立ち上がる
実際彼女もどんなことになるのかは分かっていないが、約束の場所へ歩き始める
『そうだ、火神君カバンありがとう。置いてってくれたの?』
「いや、忘れて置いてっただけだ」
『火神君らしいや』
楽しそうに笑っている彼女だが、どことなく笑顔に影がある
歩きながら、カバンの中に入っている火神が送ったハンドクリームを使い切りたかったと彼女は話す
それを言うなら自分だってもらったネクタイを付けている姿を見てほしかったと考えていた
「あの青いネコ、くれねえか」
思い出したのはゲームセンターで赤いリスと一緒に取れた青いネコだった
何のことか分からなかった彼女は瞬きを何回かしたあと、思い出したのかカバンの内ポケットから赤いリスと青いネコを取り出す
『これ?』
「ああ、もらっていいか」
『うん、もちろん』
「サンキュ」
青いネコを受け取った火神はそのままダウンのポケットにしまう
何に使うとか用途は言わないが分かっている。彼はそれを大事に、大切にしてくれるんだろうと
「どこまで行くんだ」
『もうちょっとかな』
見慣れた景色を歩いていくと、たどり着いた先は火神とよく行ったストバスコートだった。なんなら24時間以内に来たばかりである
見た目は普通のストバスコートだが彼女は立ち止まる。冷たく震える手を火神の手に重ね、1歩足を踏み入れるとストバスコートではなく真っ白な空間に変わる
火神はその空間が初めてなのかビビっているようだが、苗字は2回目であることと知識として入っているせいで何も驚きはしない
忠犬と有名なあの秋田犬のように2号は眠るオレンジ色の苗字の前に座って待っていた