第20章 消えた彼女
次に目が覚めた時、真っ白な空間にいた。真っ白と言ってもちゃんと天井があって窓もある
身体の下には白くて柔らかいベッドがあって、窓から見える景色は夜だった
手に温もりを感じて辿ると、赤司が手を繋いだままベッドに突っ伏して寝ている
『あ、かしくん』
彼の髪はりんごのように鮮やかな赤で、この病室でおそらく一番派手な色である
ああ、ずっとこの赤を探していたのかと気づいた
『…ごめんね』
起こさないようにゆっくり1本ずつ指を外し、彼の手をそっと離す
自由になった手を握ったり開いたりしてしばらく手のひらを見つめた後、彼女は音を立てないようベッドを降りる
部屋の端に履いていた靴があり、病室の椅子の上にカバンが置かれていた
火神と出かけた時のカバンだろう。りんご飴もそのまま入っていた
このカバンがあれば身分証もお金も入っているから、ある程度逃げることが出来るかもしれないと悪い企みが脳裏をよぎる
カバンからりんご飴と念の為スマホを置いて、音をたてないように扉を開け、出て、閉めた
『ほんとにごめんね、赤司君』
罪悪感から呟いた言葉は誰にも届かった
元旦のせいか、スタッフは見える範囲にいない。監視カメラに映り込みさえしなければ出られるだろう
問題は病院服を着ていること。これだと外に出ても目立ってしまうし、外に出ても寒くて凍え死んでしまう
どうしようかと悩んでいると手招きされる。恐る恐るついていくと、いつだか一緒に花札をしたおじいちゃんが立っていた
「お嬢ちゃん」
『…花札の、おじいちゃん』
「ほれほれ。匿ってやろう」