第19章 大晦日
最寄り駅が近づいた火神は苗字の方を見る、いつもより呼吸が浅いのが心配だった
「苗字、着くぞ」
『うん』
電車の白い光の下だからなのか、顔色が悪いように見える
でも、聞いても彼女は大丈夫としか言わないのだろう
到着したので行きと同様に彼女の手を引いて降りる。握った手がやけに冷たかった
「…大丈夫か」
『大丈夫だよ。ありがとう』
やはり彼女はそれしか返さない。いつもより様子がおかしいことは鈍感な火神でもわかる
電車を降りてベンチに座ろうかと提案とするが、彼女は帰ろうと言う。それ以上何も言えなくて、せめても荷物だけでもと持つことしかできない
彼も、いつも持ってくれた
乗っていた電車が通り過ぎていく。あの時彼は、なんて言っていたんだろう
分かっていた、聞こえていたんだから
___やはりオレはまだ、名前のことが好きみたいだね
頭が痛くなってくる。記憶を覗いた時のような痛みが襲ってくる
『か、がみくん、行こ』
「…ああ」
頭は痛いがなんとか1人で歩き、改札を通り外に出る。見慣れた街並みだった。
「送ってく」
『ごめん、頼んでもい、いかな』
彼もいつも練習の後送ってくれていた。途中から遠回りに、逆方向になってしまうのに
血が通る感じがしなくて、体が冷えていく感じがする。さらに浅くなっていく呼吸に、流石に火神も何も言わないのは耐えられなかった
「苗字、休むぞ」
『火神君…』
自分の手が透けているのが目に入る。消えるのはこれで何回目?
『きえ、る』
呼吸がさらに浅くなる。体のすべてが心臓になったかのように、ドクドクと音が響く
火神が苗字の体を持ち上げ、ベンチに座らせる
いつもより明らかに様子がおかしい
「苗字、黒子呼ぶな」
『黒子君…?』
___これ、あげます
彼は何をくれたんだっけ、ああ、そうだった。ミサンガ
それで代わりにタイをあげたんだった。高校生の時は黒子君にあげて、中学生の時は、
『っぐ…』
思い出そうと頭痛がひどくなる。そもそも思い出すほどのことでもない、自分の記憶じゃないんだから
電話をかけようとする火神の腕を掴んだ。消えかかってる腕だが、握力はちゃんとあるらしい