第4章 目覚めた彼女
「名前が起きたのは本当だ。それはとても喜ばしいことだ…が、喜べない事があるんだ」
「喜べない…事?」
「…アイツの記憶が、塗り替えられているんだ」
「なんスか…それ…、記憶が塗り替えられたって…」
「…言葉の通りだ」
「そんなの…オレは認めないっスよ!」
「黄瀬、落ち着くのだよ」
赤司の説明と、緑間の声に歯を食い縛りながら、あの時のように黄瀬は爪を食い込ませるように手を握っていた
それを見た黒子は眉をしかめてから、小さく溜め息を吐いて目に浮かんだ涙を拭った
「つまりそれって、緑間とかお前らが名前ちゃんのこと忘れた時みたいな?」
「そうだね…それが1番分かり易いだろう」
「あー…WC辺りまでの感じか」
「つまり今苗字の中には別の記憶が入ってるって事で良いのか?」
「ああ、合っているよ」
そう返事した赤司の言葉に彼らはまた口を閉じ、ふと紫原が自分達も忘れていた事に気づいて罪悪感にも駆られ、ふと呟いた
「…名前ちんも、俺達が忘れた時こんな気持ちだったのかな…」
「あー…あの時は規模がよりでかかったから…もっと傷は深かったかもしんねぇな」
火神の言葉に元々重くなっていた空気がさらに重くなり、桃井は溜めていた涙を溢した
そんな彼らのタイミングを見計らってなのか、それともたまたまなのか、丁度雪が苗字の病室から出てきた
「謝らなきゃいけないことがあるの…」
「…?」
「私の事覚えてるって知った時ね、少し安心した気持ちになっちゃったの、覚えててくれて良かったって…ごめんな、さい」
そう言いながら雪は顔を手で覆って、ポロポロと涙をこぼし始めた
だが赤司が彼女に「顔を上げてください」と言いながら微笑んだ
「…謝ることじゃないです。当たり前の気持ちですよ」
「赤司君の言う通りです。ボクの事だけ覚えててくれたら…きっと同じこと思ってました」
少し震えた優しい声で「ありがとう」と言って彼女は「もう入っても大丈夫よ」と目元を赤くしながらふわりと微笑んだ