第17章 ウィンターカップ 前編
『そういえば、今日試合終わった後高尾君に話しかけられたとき一瞬何か見えたんだった』
「何が見えたんです?」
『観客席に1人で座ってる私、コートにも席の周りも全然人いないの』
「客席に1人、ですか…」
思い当たる節はある。1年生の時のウィンターカップ決勝リーグの誠凛対秀徳戦、あの時彼女はまだマネージャーとしてベンチにいなかった
そして試合の後、帰ろうとしているところ行方不明となった2号と苗字がいたこと
あの時彼女にどこに行っていたのかと聞いたら客席と言っていたような記憶がある
「3年前の今頃ですかね、そういうことがあったかもしれません」
『じゃあその時なのかな。ちょっと寂しそうだったんだよね、私』
ただ当時の彼女の心情はわからない。無人のコートに何を見て、何を考えていたのか
「今の名前さんも、少し寂しそうです」
『…え?』
「ボクでよければ聞きますよ」
核心を突かれてしまい動揺する。このまま話してしまおうかと思ったが話して解決できる問題でもなく、彼に、彼らに迷惑をかけてしまう内容だ
ぐっと言いたかったことを飲みこんで笑った
『寂しそうに見えるかな、私はみんなに囲まれて幸せなんだけど』
「…本当ですか?」
『うん、本当』
嘘はついていない、間違いなく幸せである。それ以上追及できない彼は「何かあれば言ってくださいね」と言ってくれた
相談できる日が来るのかわからないが、彼は頼りにしている
『じゃあその時は、よろしくね』
それだけ言って彼女は笑った。そう言われて問い詰める黒子ではなかったのでその話題はそれで終わった
ただ、彼女の心は少しだけ軽くなった気がした